悲劇は繰り返される。満月の夜毎に――
女は怯えた眼で空を見あげる。途切れた雲から現れた満月を見て、女は身体を折り曲げて苦しみだす。
そこには内気な女性は影を潜め、獰猛な獣が目覚めつつあった。
女の名は犬神直子。ごく平凡な女性である。満月の夜、彼女の身に起こる秘密を除いては……。
呪われた運命に囚われて
直子は十数年前の悲劇で家族を失い、隠れるようにして生きてきた。直子の周辺に過去を知るものはいない。
そんな直子の前に中学の同級生である今井が現れる。忘れかけていた淡く暖かい記憶が甦る。
思わず話が弾み、気がつくと二人は過去を取り戻すかのように惹かれあっていた。しかし運命は二人をあざ笑うかのように弄ぶ。
逃れる術もなく
逃げるように直子は職場からも今井からも去ろうとする。直子を助けようとする今井。だが彼女は拒絶する。
――助けなどいらない。
運命は直子から全てを奪ってしまっていた。そしてこれからも……。
満月の下で
逃れられない運命と共に生きる直子。秘密を知ってもなお彼女の元へ向かう今井。
二人の思いをよそに、月はまたその白い顔を見せつつあった。
悲劇は繰り返される。満月の夜毎に――